国政からみるブロードリスニングの実践
鈴木健
中山心太
安野貴博 2026年8月2日(日)10:00–18:30 · 慶應義塾大学 三田キャンパス
※ プログラムは予定です。セッション・登壇者・時間・会場は変更される場合があります。登壇者は確定次第、順次掲載します。
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鈴木健
中山心太
安野貴博
尹世羅
渋澤健
鈴木寛 歴史的に、民主主義(政治的平等)と資本主義(経済的効率性・不均衡)は、緊張関係を抱えながらも相互に補完し合い、現代社会の基盤を形成してきました。
しかし今、AI(人工知能)はこの均衡そのものを再定義しつつあります。知的労働の自動化、データと計算資源の集中、そしてアルゴリズムによる意思決定の浸透は、従来の市場競争の前提や民主的意思形成のプロセスに新たな問いを投げかけています。
一方でAIは、分断の加速や権力の集中といったリスクをもたらすだけでなく、行政の高度化、市民参加の拡張、そして新しい形の公共圏の創出といった可能性も秘めています。
本セッションでは、AIが資本主義の構造(市場・労働・富の分配)をどのように変容させるのか、そして民主主義の基盤(情報・合意形成・正統性)をどのように揺さぶるのかを多角的に検証します。
さらに——民主主義も資本主義も、それを支える「文化」の上に成り立っています。人々が何を善しとし、どう信頼し合い、何を人生の価値とみなすか。制度がどれほど精巧でも、文化が痩せれば両方が崩れていきます。ポピュリズムや極端な分断は民主主義の文化の劣化であり、「お金だけが人生のものさし」になることは資本主義の文化の劣化です。そしてAIは、この文化の層にも深く作用します——注目を奪い合わせ、分断を煽り、価値の多様さを単一の指標へと圧縮しうる。問いは、制度の設計にとどまりません。AIの時代に、民主主義と「良き資本主義」を支える文化を、私たちはどう育てられるのか。
国家、巨大テック企業、市民社会——誰がAI時代のルール形成を主導するのか。そして「政治的平等」と「経済的効率性」は、AIという新しい変数のもとでどのような均衡点を見出し得るのかを議論します。
栗本拓幸 デジタル民主主義には二つの幻想がある。ツールを入れれば参加が生まれるという過信と、市民の声など政策に届かないという諦めだ。私が代表を務めるLiquitous社は、市民参画プラットフォーム「Liqlid」を国内外100以上の自治体等と実装し、6年間の現場でこの二つの幻想を打ち破りつつある。
本セッションはその現場報告である。ただし成功事例の紹介ではない。なぜパブリックコメントに意見は集まらないのか。応答に年単位かかるとき参加意欲はどうなるのか。「市民の生の声がそのまま見えるのは不安だ」という行政からの相談に、事業者はどう応えるべきか。実例と自社研究のデータから、幻想と実装を分けるものを具体的に示す。
鍵は三つ。構想段階から市民に開いた自治体では意見が計画の骨格に反映され、参加の出口が行政の外、市民や企業による公共サービスの実装にまで広がり始めていること。市民の投票結果が数週間で補助金交付に反映される仕組みが生まれ、参加が「聴く」から「小さく委ねる」へ進み始めたこと。そしてこの運用知が、パブリックコメント要綱の改正や議会質疑での引用、さらにインドネシア内務省の行政評価という形で制度に定着し始めていることだ。
そのうえで残された問いを議論したい。代表制と直接参加の関係、政治に問われる「決める意思」と「開く意思」、そして地方自治法第1条の「民主的にして能率的」のうち戦後手つかずの「民主的」の側の行政改革をどう進めるか。政治家には制度の宿題を、自治体職員には明日から動かせる手がかりを、研究者・技術者には現場発の論点を持ち帰ってもらえる時間にしたい。
中山心太
大杉直也 「市民の声を政治・行政に届ける」——PoliPoli(伊藤和真氏)は、政策の発信と応援を通じてこの問いに向き合ってきた。多数の自治体との実践を積み重ねてきたからこそ見えてきた、市民参加をめぐる手応えと壁、そして想定していなかった使われ方や気づきを共有する。
「声が届く」とはどういう状態を指すのか、これからの市民参加インフラに何が必要なのかを参加者とともに考えていく。
青山柊太朗
陣内一樹
宮﨑将
市原麻衣子 民主主義は、市民が何を知り、何を入り口に判断するかという情報の土台の上に成り立っている。その入り口に、いま生成AIが急速に入り込みつつある。
大規模言語モデル (LLM) の出力は、事前の学習データ (pre-training) 、事後のチューニング (post-training) 、リアルタイムのウェブ検索による情報の取り込み (Retrieval-Augmented Generation) など、複数の要素によって形づくられる。「LLMポイズニング」とは、こうした要素、とりわけ学習や検索の対象となるネット上に特定の主張や情報を大量に送り込み、AIの出力を意図的に操作しようとする手法を指す。海外ではすでに民主主義や安全保障を脅かす大きな問題として認識され、研究が進められている。一方で、日本語空間で実際に何が起きているのかを検証した分析はごく限られている。
本セッションでは、2026年衆院選を対象に複数のAIモデルを検証する大規模実験を行った宮崎と、ロシアのプラウダ・ネットワークや中国の国営メディアの影響を分析する陣内から発表を行う。さらに、国際政治を専門とする一橋大学市原麻衣子教授を迎え、現在の状況と今後に向けた議論を行う。
関治之 ブロードリスニングやデジタル民主主義をめぐる議論は、ともすれば「どのツールを、どう使うか」という技術論に流れがちです。しかし現場で繰り返し突き当たるのは、ツール以前の前提が整っていないという現実です。本セッションは、その前提――「参加型社会」はそもそも何によって成り立つのか――を、自治体と若者当事者という現場に近い立場から掘り下げます。結論を配る場ではなく、参加者が自らの現場に持ち帰る「問い」を持って帰る時間にしたいと考えています。
議論の軸には、ブロードリスニング本で整理された「参加のアーキテクチャ」の三要素を置きます。すなわち、①既存の仕組みをうまく活用すること、②情報の処理・加工過程としての業務フローへの着目、③デジタルを活用したファシリテーション、です。「聴く」技術の巧拙よりも、まずこの三つが現場に備わっているかどうかが、参加の成否を分ける――という立場をとります。
自治体の現場で実際に起きた住民の変化(思いもよらない声、同じ言葉でも世代によって意味が異なること)、若者が自ら若者の生の声を聴いて回った経験、そしてバルセロナの参加型予算が「ふだん声を持たない層」に予算を届けた事例を行き来しながら、「聴く前に、私たちは何を整えるべきか」「誰が参加できる設計になっているか」を会場とともに問い直します。
自治体職員・議員・研究者・シビックテックの実践者など、立場の異なる参加者それぞれが、技術導入の前に着手すべき具体的な手がかりを持ち帰れる、パネルディスカッションです。
谷口太規
青山柊太朗 意見をAIで大量に集め、要約し、分類することは、すでに技術的に可能になりつつある。1万件規模の市民提案を集める仕組みも、自治体の市民会議でAIが論点を整理する実装も動き始めた。しかし「大量の声を集める」ことと「正統性のある合意をつくる」ことの間には、まだ埋まっていない深い溝がある。
本セッションは、AI媒介コミュニケーションと合意形成技術の最前線に立つ研究者・実装者が集まり、それぞれの領域で「すでにできていること」と「まだできていないこと」を高い解像度で示す。デモの羅列ではなく、領域横断の研究アジェンダを共有することが目的である。
起点となるのは次の3つの現在地である。(1) 多数の意見から信頼できる意見や多様な観点の重要意見を抽出し、発言力や多数派に左右されない集約を目指す技術。(2) LLMによって情報や対話の形式を変換し、人と人、人とAIの理解を支援する技術。(3) 市民対話・合意形成基盤を自治体や政党の現場に社会実装して見えてきた壁。
そのうえで、共通の未解決問題を議論する。良い熟議や良い合意を測る指標が存在せず、技術改善のループが回らないこと。少数意見を「重要」と判断する規範を、誰がどう決めるのか。立場や価値観が根本的に異なる人々の「翻訳」を、AIは要約や分類を超えてどこまで担えるのか。そして、AIが介在して生まれた合意は誰のものなのか、操作との境界はどこにあるのか。
聴衆、とりわけ技術者には「デジタル民主主義の未解決問題マップ」を持ち帰ってもらう。次に取り組むべき課題はどこにあり、どの順番で解けるのか。それを言葉にして共有することが、このセッションの狙いである。
宮坂学 18:45〜20:15・南校舎カフェテリア・有料。登壇者や参加者とゆっくり話せる時間です。